一の家への手紙のおば仙霞定住して

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中国茶を一息にあ

僕は考えこんでしまった。これはどういう話なんだ? とだ。そう考えているとなんとなくの違和感を持ってることに気づいた。全体的になにかがおかしいのだ。突然消える街灯、なぜか見つめてくる犬、それに左肩を見つめる女まで出てきた。しかも、その女は「重要なこと」を伝えたいと言ってきた改善失眠。僕になにが起こったか、そしてなにが起こるのか知ってると。――まったく、なにがなんだかわからない。

 小林は皿にのったのを全部たいらげると冷たい中国茶を一息にあおった。それから、顔を近づけて僕を見てきた。
「なんなんだよ、その顔は。パッとしねえぞ。まったくパッとしねえ。――で、お前も名前くらいは訊いたんだろ?」
「ん? ああ、篠崎カミラっていうらしい」
「カミラ? ハーフか?」
「いや、クォーターだってよ。お祖母さんがアゼルバイジャン人なんだってさ」
 小林は顔をしかめさせ、首を弱く振った。
「その辺のことはもういいや。なんだか疲れてきた。よくわからないけどむちゃくちゃ疲れた。それで、なにを言われたんだ?」

 僕も話してるうちに疲れてしまった。妙な感じの疲れ方だった。自分が経験したことの内部に理解しがたいことが存在してる免費化妝ように思えたのだ。それまで普通だと考えていたことが在り方はそのままに有り様を変えてしまったような感じだった。
「なに固まってるんだよ。ほれ、なに言われたんだ? そのカミラちゃんに」
「なんだかよくわからないんだけど、重要なことってのを伝えたいって言ってきた。面倒だから聞かなかったけどね」
「ふむ」

 小林は爪楊枝を使いながら目を上へ向けていた。これはほんとうに考えてるときにする表情だ。
「重要な話っていったら、そりゃ愛の告白だろ? それ以外になにがあるってんだ?」
 爪楊枝をふたつに折ると、小林は決めつけるようにそう言った。僕はいろんなことを諦めた。人選を誤ったのだ。こういう混みあった話をする相手として彼は適当な人物じゃない。そんなのわかりきったことだったのに僕はまたしても失敗したわけだ。考えてることを察してか、小林は鼻の先を指でこすりながらこう言い添えた。

「うん、ま、その、なんだ、――まとめるとだな、アゼルバイジャン系クォーターのカミラちゃんはなぜかお前の名前を知ってた。で、重要な話ってのをしようとした。お前はそれを聞かなかった。ま、なんとなく気持ちはわかるけどな。それで、その不思議なカミラちゃんは俺たちよりも上の階の住人ってことだよな? 十三階か十四階っていうと総務か秘書だろ? ああいうタイプは秘書にいねえから、つまりは総務ってことになるな。――よし、同期会を急遽執り行おう。そうなりゃ、清水も来るだろ? そんとき訊こうぜ。カミラちゃんがどういう子かってのと、どうしてお前をつけ狙うかってのをな。それでいいんだろ?」

 

 僕は部屋の片づけをはじめた。それは被害状況を克明にしていく作業でもあった。ああ、あのジッポライターも盗られたんだな――などと思いながらの片づけだ。そのライターは五年前までつきあってた彼女(犬に見つめられてると指摘してきた子だ)から貰ったものだった人體工學椅。煙草はやめたのでもう使わないものだけど、それでも思い出の品だったのだ。そのちょっと後に半年ばかりつきあった子から貰ったネックレスもなくなっていた。まあ、それだって趣味に合わないから使ってなかったけど、盗られたと思うと悲しいものだ。

 休日には集中して片づけをした。そうしなくてはならないくらい部屋は散らかっていた。朝からはじめ、コンビニの弁当を食べてからもずっとつづけた。三時くらいには疲れ果て、ちゃんとしたコーヒーを飲みたい気分になった。ただ、コーヒーメーカーもなくなっていた。1/3ほど整理のついた部屋を眺め、僕は腕組みをした。溜息は自動的に洩れた。コーヒーを飲まない限りはもう動けない――と思った。こんな馬鹿げた、なおかつ悲しい作業をつづけるには燃料が切れてしまったのだ。

 適当に文庫本を取ると(それも床に放ってあったものだ)、僕は十五分ほど行ったところにある喫茶店へ向かった。なにもその日のうちに全部片づけなきゃならないわけじゃないのだ。ゆっくりやっていけばいい。きっとこれは犯した過ちにたいする罰であり、すこしずつ解消していくしかないのだろう――なんてふうに考えながら歩いていると、子供の頃に読んだ話を思い出した。なにかの罰で大きな岩を押し運ぶよう命じられた男の話だ。その男は急な斜面の頂上まで岩を運ばなければならない。しかし、運び終えたと思った先から岩はもとの位置まで転がり落ちていく。何度も何度も、未来永劫にわたって、その男は大きな岩を運びつづける。それに終わりはない。なにしろ神罰だから。ま、それに比べたら僕にあたえられた罰はずいぶん軽いものだ。不本意ながら持ち物も以前より減っているわけだし、いつかは終わる。

 ちなみに、喫茶店にたどり着くまでのあいだ僕は三匹の犬に出会した。散歩中のが二匹――黒いレトリバーと名前を知らない正面から見ると薄っぺらい大型の犬だ。その二匹ともが僕をじっと見つめ、飼い主を困らせていた。もう一匹は雑種の白い犬で、門扉の隙間から鼻を出し、やはり僕をじっと見た。首を傾げ、なにか言いたそうな表情をしていた。
 僕は落ち着かない気分になった。見えないなにかがくっついていて、それを犬たちは見てるんじゃないか? などと思って首や肩の辺りを気にしながら歩いた。馬鹿らしいけど、そうでなかったらなぜ犬たちは僕をじっと見つめるんだ? ほんと理解できないことばかりが起こってる。僕は理解できないことに取り囲まれているのだ。



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